翻訳市場の底辺の話をしていると気分が暗くなってくる。ピンキリのキリの部分で供給を担っている人たちはたいてい、翻訳という仕事の性格を誤解し、本来なら参入するべきではない市場に参入しようとしているのだ。早く誤解に気づいて貴重な時間と貯金を無駄にしないようにと助言すべきなのだろうが、そんなことをいえば憎まれるのが落ちである。しかし、翻訳を職業とし、十年二十年三十年と続けている翻訳者も少なくない。市場の状況がある意味で劣悪ななかで、一部とはいえ翻訳で一家の生活費を賄える人がいるのは、翻訳には経験を蓄積すればするほど、品質が高くなり、速度も速くなる性格があるからだ。翻訳には条件が揃えば好循環に入れる性格がある。翻訳とは学び伝える仕事である。学んだものを読者に伝える。伝えるために学ぶ。このため、ひとつの分野で翻訳を続けていけば、その分野の知識を急速に吸収できる。